AI技術の発達により、さまざまな分野で活用されるようになってきました。ただし、そういった中でも、日本は他国に比べてAIの活用が遅れているとされています。しかし、コンサルティング会社のアクセンチュアは日本こそAI活用で経済成長する余地が大きく、世界でリーダーになりうることができると述べています。そこで、AIを活用するため企業が押さえるべきポイントとして、2018年にMELDSを提唱しました。
本記事ではMELDSの5つの各要素について考えていきます。
MELDSとは
アクセンチュアのAI研究者ポール・ドーアティ氏の著書発表の場で、その日本語版監修者である同社の保科学世氏が語ったのが、「MELDS」です。
保科学世氏は少子高齢化による労働力不足、モノづくりの優位性など、日本はAI活用においてリーダーになり得る環境にあるといったことに触れています。一方で、AI活用に対する漠然とした不安やスキル習得への消極性などがみられることにも、言及しています。
そういった中で、ビジネスにAIを活用して効果を得るために経営者が知るべき重要な5つの要素として、MELDSを提案しました。
MELDSとはMindset、Experimentation、Leadership、Data、Skillsの頭文字をとったものです。
ちなみに、ポール・ドーアティ氏はAIを脅威とする考え方を否定し、人間とAIは協働する「ミッシング・ミドル」こそ、AI活用における理想の世界観であることを示唆しています。
MELDSも、ミッシング・ミドルを前提としています。
Mindset
AIと人間が協働するためには、従来の考え方とは異なるアプローチで、仕事に取り組む必要があります。AI導入の目的は、単なる業務の自動化ではありません。AIと人間、それぞれの能力を最大限活かせる形で業務を分担させることで、はじめて人間とAIの協働を実現させるということです。
- 人間あるいはAIの特性や業務遂行に期待する役割
- 従来の自社業務とAI活用後の業務との間に生じるプロセスの違い
なども考慮しながら、自社業務の中でどこを人間に担当させるか、どこをAIに担当させるかを整理し、
業務の在り方を見直していく必要があるでしょう。
Experimentation
AI時代には、もはや他社の成功事例を模倣するのは意味がありません。重要なのは、実験的に自社で取り組んでいくことです。実験的取り組みは、多くの場合失敗に終わるかもしれません。しかし、それは大きな問題ではなく、失敗を避けるため実験的取り組みに消極的になることこそ問題です。失敗により気づきを得られたとし、結果だけでなく、プロセスを評価する姿勢も重要でしょう。
Leadership
経営層がAIの倫理的かつ責任ある使用に積極的にコミットすることが重要です。AIが人に害をなすことは、決してあってはいけません。そのために、AIがもたらす結果や影響を、AIを扱う側の人間が想定する範囲になるよう制御する必要があります。
AIに許されること・許されないことの境界線を明確にし、その境界線を超えないルール作りをしなくてはいけません。実際に問題が生じた際には、被害に対する補償や責任範囲を明確にしておくことで、企業としての責任を確実に果たせるようにしておくことも大切でしょう。
AI倫理やAIの責任ある使用については、「AI倫理とは?日本政府・企業における取り組みも紹介」「AI TRiSMとは?DX推進に向けて押さえておくべきトレンド」「デジタル免疫システムとは?重要性や事例を紹介」などの記事も参考になります。ぜひご覧ください。
Data
AIを活用するためには、まずは学習させる必要があります。そのためには、AIに学習させる、膨大かつ多種多様なデータの収集・分析・管理といったデータの流通(データ・サプライチェーン)を、適切に構築しなくてはいけません。
データはただ集めればいいというわけではありません。目的にあったデータを適切に準備できているかが重要です。AIには目的にあったデータを学習させなければ望む成果を上げることはできません。
また、データの管理においてはデータ品質や鮮度の確保も重要です。集めたデータが間違っている、または情報が古ければ、AIは誤った内容を学習します。もし、集めたデータに偏見や差別が含まれれば、AIが論理的・法的な欠陥を持つことになります。データの品質確保や倫理的・法的な欠陥を避けるためは、データガバナンスの構築も必要となるでしょう。
データガバナンスとは、企業がデータの安全性・信頼性を担保したうえで最も効果的に運用するための取り組みを指します。詳しくは、「データガバナンスとは?取り組むべき理由や注意点も解説」をご覧ください。
AIが論理的・法的な欠陥を持つのを避けるためデータの扱いは慎重になるべきですが、同時に顧客満足度が低下しないよう、一定以上の速度でデータを更新し、ニーズの変化に応じた対応も求められます。
Skills
人間がAIと協働するためプロセスを再構築するにあたって、AIの設計・開発、適切なデータの準備、学習させるなど、AIを扱うための専門スキルは必要です。それだけではなく、人間とAIを融合するためのスキルも求められます。AIは人間と協働することで最大限のパフォーマンスを発揮させる必要があり、それを実現できるスキルを積極的に開発していかなくてはなりません。そのためには社内研修や社外研修などにより内部人材の積極的な育成に取り組む必要があります。時には、外部の専門家を活用することも効果的でしょう。
AIを導入・活用する上で、「MELDS」を一つのヒントとして押さえておこう
AIがさまざまな分野で活用されるようになり、すでに多くの企業がAIを導入しています。
AIはビジネスの幅を広げ、人々の生活を豊かにしてくれるものですが、一方でその進化のスピードを目の当たりにし、漠然とした不安を持つ人もいます。
そんなとき、理解しておきたいのが「MELDS」。AIが人間の仕事を奪うといった人間対AIといった構図ではなく、人間とAIが協働して大きくパフォーマンスを向上させるといった考えをベースにした、重要原則として提唱されているものです。
実際、AI導入に成功している企業は、このMELDSを抑えているとされています。
今後もAIの開発はさらに進んでより身近なものとなり、多くの人々にとってなくてはならないものになっていくでしょう。企業としては、自社の存続のためにも、不可欠なものとなることが予想されます。 AIの導入・活用をする上でのヒントの一つとしてMELDSについて理解し、取り込んでいってはいかがでしょうか。